愛知県を拠点とする市民団体、不戦へのネットワークが「土地規制法に係る適
切な対応を求める陳情書」を県議会に提出しました。
県議会の議員や県の役人の共感も得られるものにしようということから「愛知県
議会に適切な対処を要請し、議会がそれをできないのであれば国に廃止を申し
入れて欲しいとの構成」になったそうです。県民のプライバシー権や自由権および
行政と市民の連携や信頼関係を守るための現実的なアプローチであり、愛知県
の事情を反映させたローカリティの滲み出た陳情書になっています。他の地域の
取り組みにも参考になるでしょう。
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愛知県議会議長・坂田憲治殿
「重要施設周辺及び国境離島などにおける土地等の利用状況の調査及び
利用の規制などに関する法律」に係る適切な対応を求める陳情書
陳情者:不戦へのネットワーク
代表:飯島滋明
連絡先:〒450-0001名古屋市中村区那古野1の44の17嶋田ビル207
電話:050-3593-5130
2021年11月29日
【要旨】
第204回国会で成立した「重要施設周辺及び国境離島などにおける土地等の利用状況の調査及び利用状況の規制の調査及び利用の規制などに関する法律」(以下「土地規制法」と略称します)に関して愛知県に適切な対応を求めます。
【理由】
1,「土地規制法」では「注視区域や「特別注視区域」を設定するに際して、「内閣総理大臣は、注視区域を指定する場合には、あらかじめ、関係行政機関の長に協議するとともに、土地等利用状況審議会の意見を聴かなければならない」(5条2項)と定められています。
愛知県には注視区域、特別注視区域に指定されると想定されるいくつかの「重要施設」が存在します。航空自衛隊小牧基地、高蔵寺弾薬庫、陸上自衛隊守山駐屯地(第10師団司令部があるため、特別注視区域に指定される可能性がある)、春日井駐屯地、豊川駐屯地などです。また県営名古屋空港は小牧基地と隣接し、航空自衛隊は名古屋空港の滑走路を利用しています。さらに「土地規制法」では「重要施設」として「生活関連施設」が明記されています(2条2項3号)。「生活関連施設」とは何か、「土地規制法」に明確に規定されているわけではありません。国民保護法施行令27条には「生活関連等施設」との類似の文言がありますが、「生活関連等施設」として、たとえば「鉄道や路面電車などの駅(1日平均あたり平均利用者が10万人以上)」が挙げられています。「1日平均あたり10万人以上」という要件を愛知県に当てはめると、名古屋駅、金山駅、栄駅、大曾根駅、千種駅、刈谷駅、伏見駅は「生活関連施設」となり、「注視区域」「特別注視区域」とされる可能性があります。これらの愛知の駅が「生活関連施設」となれば、愛知市民の生活等が重大な影響を受けます。さらに「国民保護法施行令」27条の「生活関連等施設」として、「発電所(最大出力5万キロワット以上)」、「変電所(使用電圧10万ボルト以上)」、「ガスタンクやガスを精製する工場」、「水道事業のための取水、貯水、上水のための施設と配水池」、「NHKと国内放送を行う放送局の無線施設」、「ダム」などが挙げられています。上記の施設等が「重要施設」とされ、その結果、「重要施設」周辺約1000mが「注視区域」「特別注視区域」となれば、愛知市民の生活に与える影響ははかり知れません。国会審議では、土地規制法での「生活関連施設」と国民保護法施行令の「生活関連等施設」は異なるとの政府答弁がありましたが、「土地規制法」に「生活関連施設」の詳細な定義があるわけではありません。そして国会審議を見ても、「注視区域」や「特別注視区域」に関して不適切な政府答弁が目立ちます。たとえば防衛省がある東京都市ヶ谷が「特別注視区域」とされないとの国会答弁は何度も繰り返されました。常識として軍事組織の司令部がある市ヶ谷が「特別注視区域」とされないのは「噴飯もの」です。一方、与那国や石垣島は島全体が「注視区域」になるとの国会答弁もなされましたが、政府が地域の現実をわきまえていないことを証明する答弁です。 現場を見ればわかるように、島全体を「注視区域」や「特別注視区域」にする必要はありません。「土地規制法」では本来必要もない広汎な地域が「注視区域」「特別注視区域とされる可能性があります。そして、土地規制法に基づき「注視区域」や「特別注視区域」に指定されると土地取引が規制され、市場で敬遠される、価格が下がるなどの影響が生じます。実際、「特別注視区域」となれば土地の売買に際しては届け出が義務化され、届け出義務違反には罰則が科せられます(土地規制法13条、26条)。そこで政府は「宅地建物取引業法の重要説明事項」と答弁しています(2021年5月26日衆議院内閣委員会)。土地等の価格が下がっても、政府はその損失を補償しないとも答弁しています。
2,土地規制法7条1項では「内閣総理大臣は、土地等利用状況調査のために必要がある場合においては、関係行政機関の長及び関係地方公共団体の長その他の執行機関に対して当該土地等利用状況調査に関わる注視区域内にある土地等の利用者その他の関係者に関する情報のうちその者の氏名又は名称、住所その他政令で定めるものの提供をもとめることができる」、同条2項で「関係行政機関の長及び関係地方公共団体の長その他の執行機関は、前項の規定による求めがあったときは、同項に規定する情報を提供するものとする」と明記されています。2項での「関係行政機関」は「防衛省」や「防衛省近畿中部防衛局東海防衛支局」などが想定されます。「個人情報」は情報化社会において個人の生活の利便性に資する一方、その漏洩などは個人の生活を根底から脅かす危険性もあります。個人情報保護の重要性に鑑み、自治体内部でも他の部署に個人情報を提供しない運用をしている自治体もあります。ところが上述したように、土地規制法では内閣総理大臣や防衛省等から情報提供を求めるものとされています。土地規制法をめぐる国会審議では、政府や与党国会議員から、国際結婚や賃貸借はダミー等の可能性があり、土地規制法に基づく調査の対象とすべき旨の発言もされました(2021年5月21日衆議院内閣委員会)。自衛隊の準機関紙『朝雲』は2021年4月8日付で土地規制法案(当時は法案であった)に関し、「有効な監視の第一歩」との記事を掲載しています。2007年、陸上自衛隊の「情報保全隊」が国民を監視していた事実が明るみになりました。第204国会の政府答弁や防衛省の対応からすれば、政府や防衛省等は行政遂行に必要もない「個人情報」の提供を求める可能性は否定できないと思われます。そして土地規制法を根拠に愛知県が政府や防衛省に情報を提供する事態が常態化すれば、愛知県のことも信用できなくなり、愛知県に情報を提供しない市民も生じると思われます。防衛施設周辺住民は当該自治体と連携し、騒音軽減や危険回避など様々な要求を提出し協議しています。たとえば春日井市の飛行場周辺対策市民協議会は、市、議会、住民で構成されています。土地規制法関連機関として自治体に総理大臣や防衛省等が情報提供を求め、自治体がその求めに応じて情報を提供することになれば、こうした行政への市民参加は萎縮したものになり、地方自治は歪められます。そして国や防衛省等への愛知県の情報提供などを巡り、市民と愛知県がもめる事態が生じても、国や防衛省はそのことに責任をもたないでしょう。これでは自治体の円滑な業務遂行に支障が出る可能性もあります。その原因となり得るのが「土地規制法」です。
以上の理由で不戦へのネットワークは下記の事項について愛知県議会に陳情します。
記
- 愛知県内に不必要・不適切な「注視区域」「特別注視区域」が設定されないよう、国に強く要請してください。
- 土地規制法第7条を根拠とする、国や防衛省等による個人情報提供要請には応じないでください。
- すべての施行プロセスの情報公開と民意反映のためのパブコメ実施を国に求めてください。
- 上記1.2,3ができないのであれば、「住民の福祉の増進をはかることを基本」(地方自治法1条の2第1項)とする「自治体」たる愛知県は、土地規制法の廃止を国に求めて下さい。
以上
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