声明
土地規制法による区域指定と今後の本格運用に対し抗議する
4月11日、全国で合計184箇所の注視区域・特別注視区域の指定(4回目)が告示され、5月15日に施行される。この5月15日は沖縄の「日本への復帰の日」である。「復帰」によって「基地のない平和な沖縄」は実現せず、多くの米軍基地が残され、基地があるが故の苦しみは解消されなかった。米軍基地の加重な負担に加え、ミサイル基地の新設・ミサイル配備をはじめ自衛隊の防衛施設拡張が強引に進められるなか、土地規制法による新たな基地負担が5月15日に施行されるのは、沖縄にとっては象徴的といえる。
これまでに全国で指定された注視区域・特別注視区域は合計583カ所であるが、沖縄県は二回目の指定での39カ所と今回の指定での31カ所を合せて70カ所となり、全体の12%を占め、全国最多である。しかも沖縄県の全41市町村のうち22市町村が特別注視区域に指定され、特別注視区域の集中率においても全国で突出している。今回の指定で、米軍基地が集中する沖縄島中部では嘉手納町と北谷町のほぼ全域が特別注視区域に、宜野湾市と沖縄市の大半が特別注視区域と注視区域に覆われた。那覇市は、経済的発展を遂げる小禄、赤嶺地区などが特別注視区域に指定され、沖縄県庁舎と那覇市庁舎を含む県の政治経済の中枢までが注視区域に指定された。
沖縄県は、「在日米軍の提供施設・区域のうち、ゴルフコースとして提供されている敷地(タイヨーゴルフクラブ)」や「返還に先立って緑地公園として一般の利用に供しようとしている部分(キャンプフォスターのロウワー・プラザ地区)」が特別注視区域に指定され、糸満市の沖縄戦跡国定公園が注視区域に指定されることに「到底必要最小限のものとはいえない」として指定の見直しを求めていた。また宜野湾市は返還が決まった普天間基地が特別注視区域及び注視区域に指定されることに疑問を呈し、見直しを求めていた。那覇市は市の経済活動の中心地域が特別注視区域に指定されることで市の不動産取引や開発計画への影響に懸念を示し、やはり指定の見直しを求めていた。第4回区域指定では特別注視区域の要件に該当しながら社会経済的な事由を考慮して特別注視区域に指定されなかった市町村は全国に12カ所あるが、沖縄県は含まれていない。
沖縄だけでなく全国的にも、土地規制法の内容と運用の問題に対する疑問と懸念は自治体及び市民の間で大きくなっている。今回指定対象自治体から政府に寄せられた意見(「その他の意見」)は47件にも及ぶ。第二回指定での意見は14件(内沖縄県の意見が11件)、第三回指定では21件だったことと比べると格段の増加を示している。その多くは、「日本国憲法の保障する国民の自由と権利を不当に制限することのないよう」法の厳格な適用を求める意見、「防衛関係施設の周辺地域にさらなる負担を強いることがないよう」地域の実情を踏まえた対応を求める意見、「本来意図した機能阻害行為とは無関係な利用行為を市民がためらうこと等が生じないよう」求める機能阻害行為の認定についての意見、「指定区域内における不動産取引等の社会経済活動に支障を来すことがないよう」求める土地等取引や地価への影響等に係る意見など、市民の基本的人権の侵害、地域の土地取引等の経済活動への影響、基地立地自治体への加重負担に対して疑問と懸念を示すものである。
しかし政府は一顧だにしなかった。法案審議において担当大臣が「区域指定を行う前には、十分な時間的余裕を持って、関係する地方公共団体としっかり意見交換を行っていく考えであります。」と答弁したが、政府が行ったのはそれに反する一方的な情報収集だけであった。
土地規制法対策沖縄弁護団は2022年12月23日の発足声明、及び沖縄県が初めて区域指定候補とされたことを受けての2023年5月17日の抗議声明において、土地規制法が法の内容と法の運用の両面において市民の基本的人権を侵害し、自治体の自治権を損なう恐れがあることを批判した。特に処罰の要件となる「機能阻害行為」が何か、住民や法人の調査の対象、内容、方法がいかなるものかについて、法文や基本方針の規定は例示的、非限定的で、政府の解釈によっていかようにも拡大適用が可能であることを問題視してきた。
これまでの4回の指定により土地規制法は本格運用の段階に入る。われわれは、ここに改めて土地規制法の廃止を求めるとともに、法の適用に当たっては市民の人権が侵害されないよう監視し、人権侵害の兆候があれば速やかに市民団体や自治体と連携して取り組んでいくことを表明する。
地方自治体には、政府の調査においてプライバシー権が侵害されることがないように、法に規定する義務以外の情報提供や協力をしないよう求めると同時に、政府から求められた情報提供や協力の内容を市民に開示するよう要望する。
また、政府から情報や資料提出を求められた方、さらには機能阻害行為のおそれありとして勧告および勧告前の「事前の説明」がなされた方は、躊躇することなくわれわれに情報提供をしていただくようお願いしたい。われわれは専門家集団として、不当な情報収集や処罰を防止するため力を注ぐ所存である。
2024年5月13日
土地規制法対策沖縄弁護団
団長 加藤 裕
弁護団連絡先:
合同法律事務所098(917)1088
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